キーンコーンカーンコーン
チャイムの音が学校中に響き渡る。
「今日のホームルームはこれでおしまいです。明日からの3連休、みんなハメを外しすぎないようにね」
教壇に立つ教師の定番の言葉を聞きながら、生徒達は元気よく「わかりました~!」と返事をしながら帰り支度を始める。
それを見ながら、教師……緑谷出久も職員室に戻るために教室を後にする。
職員室へと向かう途中、出久に声をかけてくる生徒達に返事を返しながら真っすぐに歩いていく。
そして、職員室の自席に戻ると、ほぅ、と一呼吸をしてから、来週の準備をテキパキと進め始めた。
集中して作業をする出久に、「おい、緑谷」と後ろから声がかかった。
出久は作業を中断して、ぐるりと後ろを振り向いた。
「どうしたんですか? 相澤先生」
出久に声をかけてきたのは、かつての恩師であり、今は同じ雄英高校の教師としての先輩で同僚でもある相澤だ。
「そろそろ期末テストの準備をしないといけないが、準備は始めてるか?」
「大丈夫ですよ! 準備はできてます!」
元気よく話す出久に、相澤は「ならいいが」と言ってから
「お前、ヒーロー史のテストは、あんまり作り込みすぎるなよ」
と釘を刺される。
「……はい。がんばります」
相澤に指摘をされた出久はそう言って、あははははと、力なく笑った
出久が受け持っているヒーロー史とは、現代社会の成り立ちから、現在までの近代社会とそこにかかわったヒーローに関する出来事などを扱う学問である。自他問わずヒーローオタクの出久にとっては自分の得意をまとめたような学問だ。
授業はわかりやすいと生徒からも好評なのだが、テストはいまいち不評である。以前、小テストを出した所、生徒たちから「難しすぎる」とクレームが大量発生したことがあった。
本人としては生徒にとってもわかりやすいように出題範囲や傾向などまで伝えた上で、だ。何がいけなかったのだろうと相澤にもテストを見てもらったところ、
「もう少し、一般的な問題を増やせ」と指摘をされたのは記憶に新しい。
ちなみに、別の教員にも見てもらった所、苦笑いをされた。どうやら問題の傾向に偏りがあったらしい。
今回は学期末のテストだ。小テストの時のような失敗で、生徒を赤点すれすれにさせてはいけない。生徒達のレベルに合うテストを作らなければ、と。
そう考えた出久は、後で他の先生たちにも見てもらって修正ができるようにと早めにテストの準備に取り掛かっている。
「テストが3週間後から始まるので、来週くらいに相澤先生に問題を見てもらって意見を聞けるように早めに作っているんですよ」
それを聞いて「相変わらず緑谷は準備が早いな」と言いながら、「それなら今日は早く帰れよ」と釘をさしてくる。
今週は予定を前倒しにするために、出久の帰宅が遅くなっていたことにどうやら気が付いていたらしい。
見ていないようで見るべきところはしっかりと見ている相澤に、僕も見習わないとと思いながら足元に置いてある通勤用のリュックを膝に引き寄せる。
「大丈夫ですよ。今週は自分でも帰りが遅くなってしまったと思っていたんで、早めに帰る予定なんです」
だって、僕達も3連休ですからね。という出久の言葉に嘘は無いとわかったのだろう。
相澤は右手にもっていた出席簿でポンポンと自分の肩を叩く。
「それだったらいい。お前も3連休はゆっくり休んでおけよ」
「ありがとうございます」
相澤はそう言って、自席へと戻っていく。
出久はその背中を見送りながら、テストの準備で忙しいのは自分も同じなのに、気遣ってくれるその優しさに感謝しながら、リュックを背負う。
そして、職員室の出口を向かいながら「おつかれさまでした」と声をかけて職員室を出る。
(今日は早めに帰れるから、録り貯めしたヒーローニュースを見てから、時間があったらアレをしようかな......)
出久は帰宅してからすることをあれこれと考えながら、足早に自宅へ向かうのだった。
